マレーシア植林紀行
〜フタバガキを植える人達へのエール〜

17.屋台 −客はリンギットー

植林活動1日目の夜は、第二班全員で屋台に繰り出した。屋台へはG・JさんとH・Mさんに連れて行ってもらうことにした。何しろ彼ら二人は植林2回、3回というマレーシア・コタキナバルの生き字引である。H・Mさんは英会話も、マレーシア植林を契機に習ったというマレーシア語も操れるので大安心である。ホテルの玄関でちょうど9人乗りのタクシーを呼んで、どやどやと乗り込んだ。街のほぼ中心の一角で車を降りる。ビルの谷間の広場の真ん中にテーブルと椅子が並べてあり、広場の三方を囲んでそれぞれ屋台の店が並んでいた。

一歩広場に足を踏み入れた途端に、すばしこく40がらみの女性が寄って来て何やらまくし立てる。その剣幕に押された訳ではないが、我々は何となくこの女性の後に従って1つの丸テーブルに着いた。まだ客も少ない。貧しい飾り電球もピカッ・・ピカッ・・と何やら手持ち無沙汰である。みんなもの珍しそうに首を回してきょろきょろと辺りを見回している。先ずはビールを頼んでから、何人かが席を立って屋台料理の食材を見学に行った。いくつかある水槽の中を覗き込みながらキャーキャー騒いでいる。何が居るのだろう? 私も席を立って見に行った。亀がいて、海老がいて、蛙とうなぎが同じ水槽に同居していた。じっと悟りきって瞑想に耽っている何匹かの食用蛙の間を、うなぎが往生際悪くのた打ち回っている。大きな伊勢海老も別の水槽にいた。

料理の注文もG・JさんとH・Mさんにおんぶに抱っこである。二人が料理を選んでいる間、子供たちが(屋台の従業員?)皿を配りに来た。赤や黄色のプラスチックの皿を、パタパタと目の前に並べていく。「まるでママゴトみたい・・・子供達が配っているしねぇ・・・」誰かが小声で呟いた。しばらく待って、突然怒涛のように次から次へと料理が来た。我々も怒涛のように料理にむしゃぶりついた。蟹を食い、海老を食い、そばのようなものを食い、蛙まで食った。G・Jさんが頻りに伊勢海老の刺身を皆なに勧めている。「これだけで、今回の料理の半分の値段なんだぞぉ〜」私は腹でもこわしたらと警戒して食べなかったが、全く残念なことをした。翌日Kさんにそれとなく聞くと、何とも無い、とケロッとしている。私は大の刺身大好き人間なのだ。

それから、気付いたのである。いくつかの視線がこちらに突き刺さっているのが何となく感じ取れた。我々の周りを遠くから取り囲むように、それでいて何気ない素振りで、いかにも無関心を装っているが、その小学生のような屋台の従業員?が新たな注文を待って、虎視眈々の表情でこちらを伺っているのが分かる。ちょっとでも手を上げて合図をしようものなら、わっと突進して来るのではないか。我々は客ではなくて金なのだ。リンギット(マレーシアの通貨)の集団なのだ。

エコフォレストパークでの植林の帰り、バスに乗って国道に出、少し走った辺りから高床式のバラック小屋が続く。この辺りはとりわけ貧しい地域と見えて、トタン屋根の小屋は少し傾き、まるでにわか作りの農家の作業小屋のようである。この家々の壁板に、それもみな国道に面した所に、赤いペンキで大きな×印が書いてあるのに気付いた。それもしつこい程の書きようで、この貧しい一角の家々の壁板にだけ書いてあるのだ。ホテルに帰ってから、ガイドのクリスさんとタデウスさんの二人が話し込んでいる所に割り込んで行って、このことを聞いてみた。「あの赤いバツ印は何か宗教的な意味があるのですか?」「さぁ〜?」と二人は顔を見合わせて困った風にも見えた。「別に意味はないと思いますけど・・・」とつれない返事である。あっ!と思った。あれは、差別なのだ。私がまだうんと小さかったガキの頃、村一番の貧乏人の家がいつもチョークでいたずら書きをされていた。あれではないかと思った。ここにも虐げられ、じっと犠牲に耐えている人達がいる

我々は日本から来てリゾートホテルのシャングリラ・タンジュンアルに泊まり、そしてボランティアだと言って森に木を植える。しかし我々文明人の知らないところで、きっと我々の犠牲になっている大勢の人達がいるはずだ。ILOの調査では、発展途上国の5歳から14歳の児童のうち、働いている者が世界中で25000万人いると推定している。かつてスポーツ用品の名門ナイキは、発展途上国で作るシューズの児童労働が発覚して不買運動に会った。この例に漏れず、文明国は往々にしてこれらの驚くべき低価格の児童労働によって支えられているのかも知れない。CSRはこの意味では「貢献」でも「ボランティア」でもなく、もはや企業としての義務、贖罪行為ではないのか?そしてこれらの行為によってはじめて、企業としてのサスティナビリティが実現可能となるのではないか?企業の社会・環境問題への取り組みはコストではなくて将来に向けての投資と考えるべきなのだ。

<解団式>につづく