マレーシア植林紀行
〜フタバガキを植える人達へのエール〜

15.バスの車窓から(2) −マングローブ林の中の家ー

国道は海沿いに走っているようだ。バスから時々広い干潟が見え、そのずっと向こうに青い水平線が見え、そこここにマングローブの林も見える。河口近くに架かる比較的長い橋を渡っていると、両岸にこんもりと茂るマングローブ林が望まれる。そこに一軒、ちょうどこの橋と河口との中間くらいの位置に、家が建っていた。茶色い泥川の中に床柱を立てて、このバラックはマングローブの林の中に溶け込んでいた。家が、森の一部に同化してしまっているようにも見える。しっかりと森の風景として馴染んでいるのだ。こんな所に人が住んでいる! はっと胸を突かれた。恐れ入ったと思った。そしてこの家は、この家の民は、無言で文明に抵抗しているのだと思った。

この地球上に樹木が出現したのが3億5千万年前、火や道具を使う原人の出現が50万年前、その長い長い年月を経て豊かな森林が育てられてきた。その地球上の森林50億haは、1970年頃までに40億haにまで減った。その殆どが、実は、文明人の住む温帯林である。森を伐って牧草地を作り、商業地を作り工場を作り続けた。温帯林はこの頃までに32〜35%を失い、森林消失面積では最大規模である。熱帯林はこの時点でわずか4〜6%の消失。森とともに生きてきた人達に守られてきた。この後、さらなる経済発展を手に入れるために、文明人による熱帯林の商業伐採が急速に進んで行ったのである。

今、先進諸国は熱帯林を守れという。マングローブの森を保護せよという。原住民の焼畑農業やマングローブの木の炭焼きは止めろ、という。熱帯林は地球温暖化防止の切り札であり、マングローブの林は津波災害を防いでくれるのだからと言う。身勝手ではないか! 今さらそんな事を言い出したりして。勝手に木を伐って来たのは文明人ではないか!俺達は森から衣食住の恵みを得て、それだからこそ感謝の念を持ってこの森を守ってきた。馬鹿言っちゃあいけない!木を伐るなとか、遠く日本から来て僅かの木を植えて、それで満足なのか!どうなんだぁ!参ったかぁ!・・・。 いささか興奮したようである。筆が走った(滑った?)。バスも橋を通り過ぎ、国道をひた走っている。

写真左:マングローブ林の中の家(文中の一軒家とは違うが・・・)

<セレモニー>につづく