マレーシア植林紀行
〜フタバガキを植える人達へのエール〜

19.帰国

2005年1月17日、MH080便は予定より早く、午前6時10分に成田に着陸した。機外に出るとさすがにブルッと来る。そうなのだ、日本は真冬だったのだ。成田の気温は2度だった。皆な、ターンテーブルから出てくる荷物を取って近くに集まる。H団長が最後の挨拶をして、午前7時解散。私は皆と握手を交わし名残を惜しみながら地下のJR空港第二ターミナル駅に降りて行く。8時13分発の成田エクスプレス4号の指定券を買う。これが我が家のある辻堂方面に行く一番早い電車である。しかしまだ1時間以上もある。コンコース内にある食堂に入った。朝早いので店内は2組の客のみ。温かいきつねそばを食べていると眠気が襲ってとろんとしてくる。客は、私一人が残った。

突然、厨房の中から低い調子の怒鳴り声が聞こえてくる。「あんたね、今やることはそっちじゃなくて、こっち、こっち、こっちの仕事でしょ! 本当のもう〜、あんた、馬鹿じゃないの・・・」店の主人らしい男が店員を怒っている。怒られている人は反論もなにもない、じっと黙っているようだ。しばらくして「要領よくって言ったって・・・仕事に来ていきなり・・・なにもこんなにまで・・・・」と小さく聞こえてくる。入り口でチケットを売ったり、後片付けをしていた50がらみのおばさんが、少し離れたカウンターの所で唐辛子の容器を布巾で何回も擦りながら独り言を呟いている。「ああ、日本に帰ってきたんだぁ〜。厳しい日本に・・・」と思わず現実に引き戻される。

成田エクスプレスに乗り込む。ほんの少しの間しか離れていなかったのに、何故か懐かしいような気持ちで窓の外を飛び去る日本の冬景色を追っているうちに眠気が襲ってきた。東京駅で一度目が覚め、電車が走り出して再び眠り込む。ぼんやりと目を開けると、「あれ?見たたことがあるぞ〜?」という風景である。瞬く間に目の前にビルがしっかりと立ちはだかる。ビルの名は「○×△ビル」。何と私が勤務している建物である。はっとして思わず時計を見る。午前9時15分。全員が気合を入れて仕事に取り掛かり始めた時刻である。成田エクスプレスは凄いスピードで走り過ぎたのに、そのビルはしばらく目に焼きついて離れなかった。

何故こうも現実は非情なのか。何故、こうも早く我を現実に引き戻そうとしているのか。せめて今日ぐらいはマレーシアの自然と友情を夢の中で引きずっていたかったのに・・・。すっかり目も心も覚めてしまった。やけくそ気味に「気合だ!気合だ!気合だぁ〜!」

<エピローグ>につづく